欲しい言葉をくれる人。
どうでもいい男が、私を飯に誘った。
しかも2人きり。
どうでもいい男は、相手の感情を読み取ることができないから、その場の空気を読むことができないし、
相手が不快に思うことを無意識にしてしまうのだ。
でも、さっそくの誘いだし。
断るのは失礼かしら。
それに、向こうは私を友人として誘っただけかもしれないし。
1回くらい、いいか。
どうせ、今のバイトをやめたら会わないし。
私は、誘いを受けた。
2月23日。
この日は、大学の卒業パーティーだった。
ずっと着たいと思っていたチャイナドレスを纏って出席した。
パーティーには、2年半想っていた人も出席していた。
2日前に誕生日を迎えていたことは知っていたので、ここにいる誰よりも先に「おめでとう」と伝えたかった。
でも、それより先にあの人が
「チャイナ、似合っている。」
と私にだけ聞こえる声で言った。
この日、私が欲しいと思っていた言葉をあの人がくれた。
失恋したとはいえ、幸せな気分になった。
昔のことを思い出す。
雨の季節に少しだけ付き合っていたあいつ。
「無理しないで、無理してるってわかるから。」
ついつい人前で「いい人」を演じて、無理をする私にそう言ってくれた。
異性だけじゃない。同性の友人もそうだった。
校内コンクール。
そこで選ばれた絵が、合唱コンクールの時に体育館の舞台に掲げられる看板のデザインに採用される。
私も友人も最終選考まで残った。
でも、選ばれたのは、友人の絵だった。
悔しくて友人に何も声をかけられなかった。
「おめでとう」という言葉すら。
そんな私に、友人は一言言ったのだ。
「選ばれたのが私じゃなくて、さいちゃんだったらよかったのに。
そうしたら、さいちゃんも私もこんな思いをしなくて済んだのに。」
きっと、友人も私が悔しがっている姿を見て、素直に喜べなかったのだろう。
あの時ほど、自分が情けないと思ったことはなかった。
私から声をかけるどころか、友人は欲しい言葉を私にくれた。
どうでもいい男から、飯に行く日時を確認するラインが届く。
この人が、私が欲しい言葉をくれる人ではないことはわかっているし、
私もこの人に対してこの人が求めている言葉を与えることはできないだろう。
お互いが気を遣う関係で、2人だけで飯に行ったところで疲れるだけだ。
それに、どちらかというと、縁を切りたいと思っている相手だ。
私は、丁重に誘いをお断りした。